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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)3号 判決

東京都立川市富士見町二丁目二三番一〇号

原告

斉藤京子

東京都立川市高松町二丁目二六番一二号

被告

立川税務署長

柳澤昭

右指定代理人

細井淳久

江口育夫

大森幸次郎

長谷川貢一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が昭和五三年三月一〇日付で原告の相続税についてした更正を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和四九年九月二八日死亡した訴外佐治敬助(以下「敬助」という。)の長女、訴外佐治敬子(以下「敬子」という。)は三女、訴外高橋悌子(以下「悌子」という。)は四女、訴外佐治弘毅(以下「弘毅」という。)は養子、訴外佐治悦(以下「悦」という。)は妻であり、右五名が敬助を相続した(以下「本件相続」という。)。

2  原告の本件相続に係る相続税に対する更正に至る経緯は別紙一のとおりであり、右更正(以下「本件更正」という。)に対する異議申立ては昭和五三年八月三日に、審査請求は昭和五四年一一月二一日に、いずれも棄却された。

3  しかし本件更正には次のとおりの違法があるので取消しを求める。

(一) 本件更正には遺産の範囲の認定を誤り、課税価格を過大に認定した違法がある。

(二) 原告ら全相続人は、昭和五〇年三月二八日、協議により全遺産を分割し、同日、共同で相続税申告書を作成提出したのであるから、被告は、各相続人が右協議の結果に従い、又は仮に右協議が無効の場合は民法の規定による相続分に従い、財産を取得したものとして課税すべきであるのに、原告ら相続人の相続税申告書を偽造し(昭和五〇年七月三一日付相続税の修正申告書〔甲第一四号証〕が右偽造にかかる申告書である。)、原告を除くその余の相続人が右協議の結果と異なる分割方法により各自財産を取得したものとして課税した違法がある。

(三) 被告は弘毅の悌子に対する債務一〇〇〇万円を債務控除して本件更正をした違法がある。

(四) 相続税法(以下「法」という。)五五条によれば、未分割財産は、各相続人が民法の規定による各自の相続分に応じて取得したものとして課税すべきところ、被告は更正の調査の際発見した未分割財産(被告の主張2(八)、(一〇)、(一一))につき、これが存在を原告に通知して相続税の申告をする機会を与えず、これを弘毅の取得分として課税した違法がある。

(五) 被告は、原告ら相続人の法に従った申告を無視し、国立市所在の土地・建物(被告の主張2(四)、(五))を何人かが一括して取得した旨の相続税申告書を偽造し(前記(二)のとおり。)、右財産を一括して評価したが、これは、法の前提とするいわゆる法定相続分課税方式による遺産取得税ではなく、いわゆる遺産税としての課税であり、違法である。

(六) 原告ら相続人全員は法に従って申告したのに、被告は、民法九〇七条、法一条、一一条、一六条一項、国税通則法二四条に違反し、更正権を濫用し、相続税申告書を偽造し(前記(二)のとおり。)、国立市の土地・建物等の取得者を不明にし、原告を除くその余の相続人各自の取得財産及び課税価格を不明にし、もって原告の相続税額の計算を不能ならしめた違法がある。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3は、(二)のうち、昭和五〇年三月二八日、相続人全員の名義による相続税申告書が提出されたことは認め、その余は争う。

三  被告の主張

1  原告は次の(一)ないし(三)記載の財産、価額合計六六七〇万四二九〇円を本件相続により取得した。

(一) 会津若松市の土地 五四六五万五三六四円

会津若松市馬場一之堅町一一番宅地四四六・二八平方メートル(実測四八七・三六平方メートル)、同町一二番宅地三五七・〇二平方メートル(実測三七一・四九平方メートル)、同町一三番宅地七九〇・〇八平方メートル(実測七三九・二三平方メートル)三筆合計実測面積一五九八・〇八平方メートル。価額は別紙二のとおり合計五四六五万五三六四円である。

(二) 会津若松市の建物 一四八万四九一〇円

(三) 株式 一〇五六万四〇一六円

2  本件相続について相続人全員に係る相続税の課税価格(各相続人ごとに一〇〇〇円未満切捨)は左記(一)ないし(一三)の合計から(一四)を控除した一億八九〇七万一〇〇〇円である。

(一) 会津若松市の土地(1(一)と同じ) 五四六五万五三六四円

(二) 会津若松市の建物(1(二)と同じ) 一四八万四九一〇円

(三) 株式(1(三)と同じ) 一〇五六万四〇一六円

(四) 国立市の土地 六五三三万八九一三円

国立市東一丁目六番一二宅地四〇・七九平方メートル、同番一三宅地六二・〇八平方メートル、同番一四宅地二八五・二八平方メートル、同番一六宅地四六・二八平方メートル、同番三〇宅地五一六・九五平方メートル、同番三一宅地一六一・九八平方メートル六筆合計実測面積一〇九五・〇九一五平方メートル。価額は別紙三のとおり合計六五三三万八九一三円である。

(五) 国立市の建物 六五万八九九〇円

(六) 株式(1(三)以外のもの) 四九六七万九六五三円

右は原告の主張額(有価証券)合計六〇四一万〇三五八円から原告の主張する原告取得株式の価額一〇五六万五三五五円及び後記(七)記載の振興信用組合の出資金一〇万円を差し引いた価額四九七四万五〇〇三円の範囲内である。

(七) 振興信用組合出資金(二〇〇〇口) (申告分) 一〇万円

(八) 国債 四三万四〇〇〇円

(九) 現金・普通預金(申告分) 一六四万〇三八六円

(一〇) 弘毅名義普通預金 八六万六一八六円

右は振興信用組合国立支店の普通預金(一〇〇三一四三号)であるが、その届出印影は敬助が専ら使用していたものと同一であり、払戻請求書の署名が同人の筆跡であり、同人の株式取得代金が右預金から出金されたことがあることからすると、敬助の財産に属していたものというべきである。

(一一) 定期預金 五〇〇万円

(一二) 家庭用財産(申告分) 一〇万円

(一三) その他の財産(申告分) 七万三五〇〇円

(一四) 債務控除額(申告分) 一五二万三八一五円

3  本件相続の遺産に係る基礎控除額は一二〇〇万円、配偶者控除額は六〇〇万円、悦の法定相続分は三分の一、原告ほか三名のその余の相続人の法定相続分は各六分の一である。

4(一)  以上の事実を前提として法に従って計算すると相続税の総額は六六六五万七四〇〇円、原告の相続税額は二三五一万六六〇〇円となる。

(二)  なお相続税額の算定にあたっては、各相続人の課税価格は、各人に係る純資産価額の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てるので(国税通則法一一八条)その端数金額の最大限は各人につき九九九円であるが、原告以外の相続人四名に係る純資産価額の合計額(2(四)ないし(一三)の合計額から(一四)を控除した一億二二三六万七八一三円)の端数は八一三円であるから、右四名各人についての端数金額の合計額は最大で三八一三円、最小で八一三円となり、右四名について理論上あり得る課税価格(各人について一〇〇〇円未満切捨後のもの)の合計額は、一億二二三六万四〇〇〇円、一億二二三六万五〇〇〇円、一億二二三六万六〇〇〇円、一億二二三六万七〇〇〇円となるが、このうち計算上原告の相続税額が最小となるのは一億二二三六万七〇〇〇円の場合であり、その場合の相続税額は二三五一万六六〇〇円、すなわち、本件の税額と同一である。

5  従って、原告の相続税額は二三五一万六六〇〇円であり、これは計算上ありうる最小値でもあるが、本件更正における相続税額二二九七万七六〇〇円を上回るから、本件更正の請求は、少なくとも本件更正における右金額を下回る部分については更正すべき理由がないので、本件更正の請求のうち、右金額を超える部分についてのみこれを認容して減額更正し、その余についてこれを棄却した本件更正は適法である。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1(一)  被告の主張1(一)ないし(三)記載の財産を原告が本件相続により取得したことは認める。

(二)  同1(一)のうち実測面積は不知、別紙二の計算は争う。別紙二2本田元二ら借地部分の面積は一四九・〇九平方メートル、3小林セツ借地部分は当時江花商事株式会社に賃貸しておりその借地面積は三〇坪(九九平方メートル)、4加藤てる(テル)借地部分は九八・三四平方メートル、8中村ウメ(中村春枝)借地部分は一四六・一一平方メートル、9大宮哲夫は大宮哲雄、大宮千恵子で借地面積は六七坪(二二一・一平方メートル)であり、会津若松市の土地の価額総額は三四六四万一一八八円である。

(三)  同1(二)、(三)の価額は争う。1(二)は一五二万〇九六〇円、1(三)は一〇五六万五三五五円である。

2(一)  同2(一)ないし(三)に対する認否は右1のとおり。

(二)  同2(五)、(七)ないし(九)、(二)ないし(一四)は認める。

(三)  同2(四)の土地が敬助死亡当時同人の所有であったことは認めるが、その余は争う。

(四)  同2(六)のうち、本件相続に係る有価証券の総額が六〇四一万〇三五八円であること、うち振興信用組合の出資金一〇万円が存在すること、原告が本件相続により取得した有価証券の価額は一〇五六万五三五五円であることは認めるが、その余は争う。

(五)  同2(一〇)のうち、被告主張の普通預金が敬助の所有に属していたことは否認し、その余の事実は不知。

3  同3は認める。

4  同4、5は争う。

第三証拠

本件記録中、書証目録・証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、まず本件更正には遺産の範囲の認定を誤り、課税価格を過大に認定した違法があると主張するので検討する。

1(一)  原告が被告の主張1(一)ないし(三)記載の財産を本件相続により取得したことは当事者間に争いがなく、うち(二)(会津若松市の建物)、(三)(株式)の価額については、被告の主張する一四八万四九一〇円、一〇五六万四〇一六円の限度で当事者間に争いがない。

(二)  そこで被告の主張1(一)の財産(会津若松の土地)の価額につき検討する。

証人酒井和雄の証言により原本の存在及び成立が認められる乙第一ないし第三号証、同証言により真正に成立したと認められる乙第四、第五、第一八、第一九号証によれば、敬子らは本件の相続税の修正申告書を提出するにあたり、会津若松市の土地の実測を土地家屋調査士・測量士補春日録郎に委任したこと、同人は現地で借地人及び隣接地利用者の立会いを得て利用区分を定め、その立会いの得られないものについては雨落ちで境界を定めて、各借地人及び借家人の利用区分並びに建物の所在場所を明らかにした測量図及びこれに基づく面積計算表を作成したこと、右測量の結果によれば各借地面積及び各借家建付地部分の面積は別紙二のとおりであることが認められる。

これに対し原告は、別紙二2ないし4、8、9の借地面積が実際と異なり、また、3、9については借地人が異なると主張する。

しかしながら、まず、借地人名義については、相続税額算定における相続の対象となる土地の評価は、これが賃貸借契約による貸地であればこれにより一義的に定まり、借地人が何人であるかは相続税の課税価格に何ら影響を与えるものではないから、仮に借地人の名義が原告主張のとおりであるとしても、本件更正の適法性には何ら関わりのないものというべきである。

次に、原本の存在及び成立に争いのない甲第一六号証によれば、敬助は、昭和四三年ころ、会津若松市の土地のうち、本田寅五郎(前掲乙第一八号証によれば本田元二らの被相続人であることが認められる。)に対し一四九・〇九平方メートルを、加藤新一に対し九八・三四平方メートルを、中村千代造に対し一四六・一一平方メートルを賃貸していると主張し、賃料増額の意思表示に基づく差額賃料の支払いを求める調停を申し立て、昭和四四年四月一八日これらの者との間で、三・三〇平方メートル当たり月額一〇〇円と定める皆の調停が成立したことが認められるが、さらに同号証によれば同調停においては、賃貸面積については後日測量することを予定し、この測量により確定した地積に応じた賃料を支払うことが約定されたことが認められ、また、前掲甲第一六号証、原告本人尋問の結果及びこれにより原本の存在及び成立の認められる甲第一三号証によれば、同調停において敬助は小林セツに対し八八・九五平方メートルを賃貸している旨主張していたが、一方昭和四七年八月二日敬助の代理人小澤清が、右土地部分を「三拾坪」と表示してこれを江花商事株式会社に賃貸している旨の証明書を発行していることが認められ、これらの事実に照らすと、前記調停申立ての理由中の借地面積の表示は正確な面積であるとは断定し難く、本件相続直後に実際の利用面積を実測した前記測量図の信憑性を揺がす証拠となりえないものというべきである。

次に官公署作成部分については当事者間に争いがなくその余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一五号証の一及び弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる甲第一五号証の二によれば、敬助は昭和四九年八月六日大宮千恵子に対し貸地面積が約六七坪であることを前提として計算した賃料の支払いの催告をし、同女がこれに応じた支払いをした事実が認められるが、同証によれば、右催告は賃料の支払いのないことを停止条件とする賃貸借契約解除の意思表示とともにされたものであること、右催告より先に敬助の代理人小澤清は大宮に対し異なる貸付坪数を通知した可能性があることが認められ、これらの事実によると、大宮において解除されることを慮って催告にかかる賃料を支払ったとしても、催告の前提とされた坪数が真実の貸付坪数であると断定することはできず、これまた前記測量図の信憑性を揺がすには足りない。

また、前掲甲第一三号証も敬助の代理人小澤清作成にかかる「貸地証明書」であり、江花商事株式会社に対する貸地面積が三〇坪であるとする根拠が不明であり、甲第一七号証についてはその作成経緯、現地との対応関係が不明であり、いずれも前記測量図の信頼性を覆すに足りない。

以上によれば前記測量図は会津若松市の土地の利用状況、形状を正確に表示しているものと認定すべく、右測量図及び前記面積計算表を前提にし、原本の存在及び成立に争いのない乙第六号証により認められる「昭和四九年分仙台国税局相続税財産評価基準書(宅地の路線価図を除く)」、原本の存在及び成立に争いがない乙第七号証により認められる「昭和四九年分相続税財産証価基準書(福島県の路線価図)」及び成立に争いのない乙第一六号証により認められる「相続税財産評価通達」に基づいて会津若松市の土地の価額を評価すると、別紙二のとおり五四六五万五三六四円となる。

(三)  したがって、原告が本件相続により取得した財産の価額は合計六六七〇万四二九〇円となる。

2  そこで次にその余の相続人らが取得した本件相続に係る遺産につき検討する。

(一)  被告の主張2(五)、(七)ないし(九)、(二)ないし(一四)については当事者間に争いがない。

(二)  被告の主張2(四)の土地(国立市の土地)を敬助が死亡当時所有していたことは当事者間に争いがないので右土地は本件相続に係る遺産というべきである。

証人酒井の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証及び前掲乙第四号証中の敬子の署名・印影と対照する同一の署名・押印がされているものと認められるから真正に成立したと認められる乙第二〇号証によれば、国立市の土地六筆は一団の土地であり、敬助死亡当時振興信用組合に賃貸している弘毅所有建物の敷地部分、内藤米店に賃貸していた敬助所有建物の敷地部分、弘毅所有建物の敷地部分及び敬助所有建物の敷地部分の四つに区分されて利用されていたことが認められ、これに反する証拠はない。このような場合において相続税の課税価格の算定にあたっては、筆の区分や各相続人の取得した区分にかかわりなく、相続当時の利用状況に従い利用の単位となっていた一区画の宅地ごとに評価するのが相当である(前掲相続税財産評価通達評二〇〇四)。そして前掲乙第九号証により認められる各区画の面積、形状及び前記認定の利用状況を前提として、前記相続税財産評価通達、成立に争いのない乙第一〇号証により認められる「昭和四九年分東京国税局相続税財産評価基準路線価図」、成立に争いのない乙第一七号証により認められる「同評価倍率表」に基づいて評価すると、国立市の土地の評価は、少なくとも別紙三のとおりの計算により合計六五三三万八九一三円となる。

(三)  被告の主張2(六)については、原告は本件相続に係る有価証券の総額は六〇四一万〇三五八円、原告が相続した有価証券の価額は一〇五六万五三五五円であると主張し、右総額のうち被告の主張(2(七))する振興信用組合の出資金一〇万円が存在することは当事者間に争いがないので、結局原告が主張する本件相続に係る有価証券のうち原告相続分及び右出資金を除いた総額は四九七四万五〇〇三円となり、従って被告の主張する四九六七万九六五三円の限度では当事者間に争いがないこととなる。

(四)  被告の主張2(一〇)(弘毅名義普通預金)については、証人酒井の証言によって真正に成立したと認められる乙第八号証の一、二、第一二、第一三号証及び同証言により原本の存在と成立が認められる乙第一一号証によれば、右預金の払戻請求書の署名は敬助の筆蹟であり、同人の株式取得代金が右預金から出金されたことがあること、名義人である弘毅は右預金は敬助が管理・運用し敬助の所有であったことを認めていること、申立人悌子・相手方弘毅外一名間の東京家庭裁判所八王子支部昭和五〇年(家イ)第七四九号遺留分減殺請求調停事件の調停調書には右預金と同一のものと推認される預金が相続財産として記載されていることが認められ、これらの事実によれば、右預金は敬助の遺産であるというべきである。

(五)  したがって、原告を除くその余の相続人が取得した純資産価額の合計額は一億二二三六万七八一三円となる。

3(一)  被告の主張3については当事者間に争いがない。

(二)  ところで相続税額の算定にあたっては、各相続人の課税価格は、各人に係る純資産価額の一〇〇〇円未満の端数を切り捨ててするところ(国税通則法一一八条)、その端数の金額は各人につき最大で九九九円であり、前記認定のとおり、原告以外の四名の相続人に係る純資産価額の合計額の端数は八一三円であるから、右四名の端数金額の合計は最大で三八一三円、最小で八一三円となり、右四名について理論上あり得る課税価格の総額は一億二二三六万四〇〇〇円、一億二二三六万五〇〇〇円、一億二二三六万六〇〇〇円、一億二二三六万七〇〇〇円となるが、このうち計算上原告の相続税額が最小になるのは一億二二三六万七〇〇〇円の場合であり、以上の事実をもとに法に従って計算すると原告の相続税額は少なくとも二三五一万六六〇〇円となる。

(三)  したがって、原告の相続税額は本件更正における相続税額二二九七万七六〇〇円を上回ることが明らかであるから、本件更正には遺産の範囲を誤り課税価格を過大に認定した違法はない。

三  以下原告主張のその余の違法事由につき判断する。

1  請求原因3(二)について

成立に争いのない甲第四号証、鉛筆書込部分を除き成立に争いのない甲第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告ら相続人は本件相続につき遺産分割協議をしたうえ、昭和五〇年三月二八日相続人全員の名義による相続税申告書を被告に対し提出したことが認められる(右事実のうち、右相続税申告書が提出されたことは当事者間に争いがない。)。

原告は、被告が原告ら相続人の相続税申告書を偽造したと主張する。しかし、原告が右偽造に係る文書であると主張する昭和五〇年七月三一日付相続税の修正申告書なる文書(甲第一四号証)は、当該文書の氏名欄に捺印のある弘毅及び敬子作成名義に係るものであることは右文書自体から明らかであるところ、右文書を作成したのが右両名ではなく被告であることを認めるに足る証拠は何ら存しない。また前記争いのない課税処分の経緯(請求原因2)からしても、被告において右文書が原告作成に係るものとして扱っているものでないことは明らかである。したがって被告が原告ら相続人の相続税申告書を偽造したと認めることはできない。

そして、相続税額は、原則として被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額、法定相続人が配偶者であるか、子であるか、その数、当該相続人自身の取得した財産に係る課税価格により決定され(法一一条、一一条の二、一六条、一七条)、ただ、各人の課税価格を決定する際一〇〇〇円未満を切り捨てる(国税通則法一一八条)ため、若干の差が生じるにすぎないところ、本件においては前記二3(二)のとおり原告を除くその余の相続人間の遺産の分割の態様にかかわらず原告の相続税額は本件更正による額を上回ることがないのであるから、原告を除くその余の相続人が遺産分割協議の結果と異なる分割方法により財産を取得したものとして課税されたか否かは、本件更正の適法性と何ら関わりのない事柄である。

よって請求原因3(二)は理由がない。

2  請求原因3(三)について

鉛筆書込部分を除いて成立に争いがない甲第一号証によれば本件更正にあたり債務控除の合計額が一一五二万三八一五円とされたことが認められ、被告は答弁書において右のうち一〇〇〇万円は代償相続に基づく弘毅の悌子に対する負担額であると釈明したものであるが、被告は本訴において本件更正の処分理由として右一〇〇〇万円については何ら主張しないのであるから、これが本件更正の違法事由にならないのは明らかである。

よって請求原因3(三)は理由がない。

3  請求原因3(四)について

前掲甲第三、第四号証によれば被告の主張2(八)、(一〇)、(二)の各物件は、昭和四〇年三月二八日の当初の遺産分割協議及び申告当時には未分割であったことが認められるが、被告が調査の際未分割・未申告財産を発見したときはこれを原告に通知して相続税の申告をする機会を与えなければならない義務は何らないし、また、右物件は敬助の遺産である以上、仮にこれを弘毅の取得分として課税したとしても、これがため原告の相続税額が正当な相続税額より増加するものではなく、原告に何ら不利益を与えるものでないことは明らかであるから、本件更正の違法事由とはなりえない。

よって請求原因3(四)も理由がない。

4  請求原因3(五)について

被告が相続税申告書を偽造したと認めることができないことは先に説示したとおりである。そして、相続税の課税価格の算定にあたり、相続の対象となった土地は筆の区分や各相続人の取得した区分にかかわりなく、相続当時利用の単位となっていた一区画の宅地ごとに評価するのが相当であること、本件の国立市の土地についても、一括して利用されている土地については一括して評価したものであることは前説示のとおりであり、これは原告のいう法定相続分課税方式による遺産取得税とか遺産税とは何ら関わりのないことであり、右評価方法には何ら誤りはない。なお国立市の建物(被告の主張2(五))については当事者間に争いがないところである。

よって請求原因3(五)は失当である。

5  請求原因3(六)について

被告が相続税申告書を偽造したと認めることができないのは先に説示したとおりであり、他に被告が更正権を濫用したと認めるに足りる証拠はない。

そして原告を除くその余の相続人各自の取得財産及び課税価格のいかんにかかわらず原告の相続税額は本件更正に係る相続税額をこえていることは先に説示したとおりであるから、請求原因3(六)も理由がない。

四  以上によれば本件更正は適法で原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 満田明彦 裁判官 大鷹一郎)

別紙一

〈省略〉

別紙二

会津若松市の3筆の土地は、下記の各訴外人ことにそれぞれ区分されて利用されているので、各訴外人の利用区分ごとに「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和39年4月25日直資第56号国税庁長官通達)及び「昭和49年分仙台国税局相続税財産評価基準」に基づいて評価すると、その価額は次のとおりとなる。

1 山羽弘太郎借地部分 8,510,404円

99,000円/平米(路線価)×0.99(奥行距離19.4米に対する奥行価格逓減率)×144.72平米(地積)×(1-0.4(借地権割合))=8,510,404円

2 本田元二ら借地部分 9,402,491円

99,000円/平米(路線価)×0.99(奥行距離20.2米に対する奥行価格逓減率)×159.89平米(地積)×(1-0.4(借地権割合))=9,402,491円

3 小林セツ借地部分 6,882,654円

99,000円/平米(路線価)×0.99(奥行距離19米に対する奥行価格逓減率)×117.04平米(地積)×(1-0.4(借地権割合))=6,882,654円

4 加藤てる借地部分 5,037,910円

99,000円/平米(路線価)×0.99(奥行距離19米に対する奥行価格逓減率)×85.67平米(地積)×(1-0.4(借地権割合))=5,037,910円

5 小野里保借地分 2,776,950円

99,000円/平米(路線価)×46.75平米(地積)×(1-0.4(借地権割))=2,776,950円

6 山内安弘借家建付地部分 3,681,072円

(99,000円/平米(路線価)+31,000円/平米(側方路線価)×0.1(側方路線影響加算率))×40.97平米(地積)×(1-0.4(借地権割合)×0.3(借家権割合))=3,681,072円

7 小松鉄男借家建付地部分 2,703,750円

31,000円/平米(路線価)×97.45平米(地積)×(1-0.35(借地権割合))×0.3(借家権割合))=2,703,750円

8 中村ウメ借地部分 3,002,148円

31,000円/平米(路線価)×148.99平米(地積)×(1-0.35(借地権割合))=3,002,148円

9 大宮哲夫等借地部分 4,682,658円

31,000円/平米(路線価)×232.39平米(地積)×(1-0.35(借地権割合))=4,682,658円

10 五十嵐澄子借家建付地部分 7,975,327円

31,000円/平米(路線価)×0.93(奥行距離38.5米に対する奥行価格逓減率)×0.8(間口狭小補正率)×0.9(奥行長大補正率)×429.30平米(地積)×(1-0.35(借地権割合)×0.3(借家権割合))=20,757円/平米×429.30平米×0.895=7,975,327円

11 通路(地積94.84平米) 0円

別紙三

国立市の土地6筆は下記のとおり区分されて利用されているので、これらの利用部分ごとに「相続税財産評価に関する基本通達」及び「昭和49年分東京国税局相続税財産評価基準」に基づいて評価すると、その価額は次のとおりとなる。

1 弘毅所有(振興信用組合賃借)建物の敷地部分 16,632,225円

200,000円/平米(路線価)×0.99(奥行距離18.78米に対する奥行価格逓減率)×280.0043平米(地積)×(1-0.7(借地権割合))=16,632,255円

2 敬助元所有(内藤米店賃借)建物の敷地部分 4,916,431円

80,000円/平米(路線価)×74.9456平米(地積)×(1-0.6(借地権割合)×0.3(借地権割合))=4,916,431円

3 弘毅所有建物の敷地部分 16,800,907円

240,000円/平米(路線価)×0.98(奥行距離23.11米に対する奥行価格逓減率)×238.1081平米(地積)×(1-0.7(借地権割合))=16,800,907円

4 敬助元所有建物の敷地部分 26,989,320円

80,000円/平米(路線価)×0.96(奥行距離32.80米に対する奥行価格逓減率)×(1-0.3(不整形地補正率))×502.0335平米(地積)=26,989,320円

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